七つ道具のご紹介「印刀」について
小林は5代続く老舗印章店の4代目になります。
印鑑をお彫りするには「印刀 いんとう」と呼ばれる
特殊な彫刻刀が必要になります。
細かい文字を彫りこむには、あら彫りや中彫り用の刀を
最後に文字を綺麗に整える「仕上げ刀」が必要になります。
小林はあら彫り中彫り用の印刀を1番から4番までの4本
仕上げ刀1本の 合計5本を常用しています。
時々印鑑を趣味で彫りたいので、印刀を売ってもらえないでしょうか?
というお問合せをいただきますが、
印章専門店できちんと彫刻をしている印鑑屋さんの場合
ほとんどは「自分自身で」印刀を手作りいたします。
つまり、自分の手にピッタリとあった道具を手作業で作っていきます。
修業時代はまず、この印刀を研ぐ作業からはじまりました。
ひたすら研ぐのです・・・
1)印刀のパーツ
さて、自分専用の印刀を作るにはいくつかのパーツがあります。
まずは本体となる刀の部分・・・ここは硬い鋼(はがね)でできた専用の刀です。
長さは約15センチ程度、幅は約5ミリほどの細長い粗彫り用の刀と
長さは約15センチ、幅が約6ミリの 仕上げ用の刀の2種類あります。
次に刀部分を両側から挟み込んで持ち手部分を作るため、木製の半円形をした2本の柄を使用します。こちらは長さが約13センチです。
さらに、この木製の柄の部分と刃金部分を固定するために細い竹ひごを使います。
竹ひごは熱いお湯につけると、水分を含んでまっ直ぐに伸び始めます。
さらに、水分を含んでいるため木製の持ち手にぐるぐる巻きつけた後
水分が乾くと同時に縮んでいきますので ギュッとしっかり締まっていくのです。
2)印刀を研ぐ3種の砥石
組みあがった印刀を今度は手作業で研(と)いでいきます。
小林は、3種類の砥石(といし)を使用しています。
・右から 荒砥(あらとぎ)用の一番目の粗い 砥石・・・自分の手にあわせて角度を決めて荒砥いたします。
・真ん中が、中研ぎ用の砥石・・・荒砥で形が整った刃先はざらざらの状態ですので、この砥石である程度まで表面を滑らかに研いでいきます。
・最後に左端が 仕上げ用の砥石です。
中研ぎで ある程度きれいになった刃先の表面をさらにピカピカに研いで、最後に刃を付けます。独特の形状をしていますので、きちんと切れるような刃先を作ることが大変です。
既製品では難しい理由の一つが、自分の手にあわせて角度や刃先をつけていく点にあります。マニュアルを作ることができない、感覚の世界ですが、、、
慣れてくると勝手に手が覚えていますので、わずかな時間でも刃先を調整できるようになりますが、最初のころは全く理解できず、何度も何度もやり直しの日々が続いたことを思い出します。。
3)1番刀から4番刀です。
こちらは普段使用している1番刀から4番刀です。
ご覧のように刀の両脇から木製の持ち手(柄の部分)で挟み込み、細いひごでぐるぐる巻きにして固定します。
粗彫り用の印刀は、大変特殊な形をしています。
上記の図のように1番刀から4番刀までは 三角形の先の方にわずかに刃先がついていて、この部分で材料をゴリゴリと削っていきます。
印鑑の彫方には彫刻士によってそれぞれ異なりますが、小林の場合は「篆刻台 てんこくだい」を使用します。
篆刻台は木製でできた固定器具で、印鑑を挟み込んでしっかりと固定する道具です。
さらに添え木を使用して てこの原理で 印刀を押しながらゴリゴリと印鑑を削っていきます。
よく切れる印刀は、硬い柘植の木材や水牛などの素材でもスイスイ彫り込んでいけます。
やはり自作の印刀がよく切れるかどうか、、手に馴染んだ角度と刃先が重要です。
4)仕上げ刀
こちらが仕上げ刀(しあげとう)になります。
刃先はあら彫り用の印刀とは異なり。カッターのような片刃の形状をしています。
1番刀から4番刀と同じように砥石(といし)を使って自分の手に合わせた形に研いでいきます。
やはり刃先の角度が一番難しく、修行時代は苦労しました。
さらに刃先にきちんと刃がついていないと 全く削ることができません。。。
刃先2ミリ程度の部分まで よく切れるように刃をつけていきます。
仕上げ刀の使い方は版画の絵柄を削るようなイメージで刃物を引いて一皮ずつ削っていくイメージです。
粗彫りで文字の隙間をある程度削っていますので、仕上げでは文字の形や太さを整えていきます。
一発勝負で 集中力と根気がいる作業ですが、こちらも慣れてしまえば目をつぶっていてもできるくらい楽しい仕事になります。(さすがに目をつぶってはどうかと・・・)
小林の場合は、左右両方の手が使えるので(左利きのため両刀使いです)
粗彫りは左手で印刀を握り、仕上げでは右手で印刀を使用します。
修業時代、最も細かい作業の「仕上げ」部分はお師匠さんの手を見て学んでいきましたので、右手の作業になりました。
まとめ
このように印鑑を彫るためには、自分の手にあわせた自分専用の「道具」づくりからはじまります。
そして、何より印鑑を彫る作業で最も大切なことは、この印刀を自作すること、、
よい印鑑を作るためには自分の手にあわせて よく切れる刀を作ることができるかどうかにかかっているのです。
写真は4代目小林大伸堂 小林照明です。。普段はこんな格好で彫ってませんが、、
今回は、印鑑を彫るための七つ道具・・・印刀(いんとう)をご紹介しました。
株式会社小林大伸堂 4代目小林照明
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